「仕事の失敗や失恋の傷を、パーッと飲んで忘れよう!」
ストレスをお酒で解消させようとすると、実は、未来のあなたを苦しめるかもしれないんです。
今回はアルコールが辛い記憶を残しやすくするという研究結果や、飲み過ぎが起こす体への影響などを解説します。
アルコールと心身の関係について理解すれば、健康的にお酒を楽しめますよ。
1. アルコールは辛い記憶を忘れさせてくれない
東京大学大学院の研究で、松木則夫教授と野村洋教授は「飲みすぎると、辛い記憶や感情が逆に強まる」と明らかにしました。
実験方法の大まかな内容は、以下のとおり。
- ラットにトラウマ(辛い記憶)となる電気ショックを与える
- 一部のラットに生理食塩水、もう一部のラットにはエタノールを注入
生理食塩水を注入されたグループは数日後にトラウマから回復したのに対し、エタノールを受けたグループは平均で約2週間もトラウマによって身動きが取れなかったそうです。
つまり、エタノールが不快な記憶を強く定着させたということ。
また、アメリカ国立衛生研究所の研究では、「アルコールを習慣的に飲むと、辛い記憶を消す能力が下がる」ことも報告されています。 これらの研究からわかるように、トラウマをお酒で忘れようとすることは、かえってトラウマを脳に植え付けることに繋がってしまうのです。[1]
2. やけ酒は心にダメージを与える
過度なアルコールには、心を不安定にする働きがあります。
アルコールを摂りすぎると、交感神経が過度に優位な状態になるため、自律神経のバランスが乱れ気味に。
自律神経のバランスが乱れると、バランスを整えるために幸福ホルモン『セロトニン』が使われ、セロトニンが不足します。
セロトニンが不足した結果、不安感が増し、やる気がなくなり、精神的に不安定になりやすくなるんです。
お酒でストレスを解消するつもりが、実は逆効果で、自分を苦しめることになりかねません。[2]
3. 飲み過ぎで認知症のリスクが高まる
『飲み過ぎは百害あって一利なし』というのが、近年はさまざまな研究で明らかになっているんです。
久里浜医療センターの医師らによっておこなわれた調査では、以下の結果が判明しています。
- 飲酒量が増えるほど、脳が萎縮する
- 認知症の高齢者のうち29%は『飲み過ぎ』が原因だと考えられる
- 過去に5年間以上、アルコールの乱用や飲み過ぎの経験がある高齢男性は、認知症のリスクが4.6倍高まる
やけ酒がきっかけでお酒の飲み過ぎが習慣になると、上記のような悪影響が将来的にあらわれるかもしれません。[3]
4. 適度な飲酒量は?
「じゃあ、嫌なことがあってもお酒でリフレッシュしちゃいけないの?」
と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
適量を守れば副交感神経が活性化して、リラックス効果やストレス解消効果が感じられるんです。
厚生労働省が展開する『健康日本21』では、“節度ある適度な飲酒量”は1日あたり純アルコール20g程度と示されています。
これはアルコール度数7%の缶チューハイ(350ml)1本ほど。
そのほかのお酒では、それぞれ1日あたり以下の量が目安です。
- ビール(アルコール5%)……ロング缶1本(500ml)
- 日本酒……1合(180ml)
- ウィスキー……ダブル1杯(60ml)
- 焼酎(25度)……グラス1/2杯(100ml)
- ワイン……グラス2杯弱(200ml)
なお、女性はアルコールの分解速度が遅い傾向にあるため、1日の飲酒量を上記の1/2〜1/3にするのが良いとされています。[4]
5. まとめ
辛さを忘れるためのやけ酒は、むしろその辛さを後に引きずりやすくしてしまう悪手です。
飲み過ぎは現在のあなたの心を不安定にするだけでなく、将来にも悪影響を残すかもしれません。
適度な量を守れば、お酒は心をリラックスさせてくれる栄養剤です。
ご紹介した適度な飲酒量を守り、程よい距離でお酒を楽しんでいきましょう。
【参考】
脳と心はお酒にどう影響される?やけ酒をおすすめしない理由|あたまなび
[1]「お酒で現実逃避する人」が見逃す不都合な真実 飲めば飲むほど「嫌な記憶」が強化されてしまう|東洋経済オンライン
[2]【心療内科Q/A】「『アルコール』は自律神経にどんな影響を与えますか?」|新宿ペリカンこころクリニック
[3]アルコールと認知症|e-ヘルスネット(厚生労働省)