戦国武将のソウルフード

2022-08-10
作者:伊藤有輝子

「風花ってば、またお味噌汁残して」

 共働きの朝は忙しい。それでも娘にはきちんと朝ごはんを食べてほしいので、毎日卵かけごはんとインスタントのお味噌汁を用意している。

 卵かけごはんはいつも喜んで食べてくれるが、お味噌汁にいたっては少ししか口をつけてくれない。。

「だってぇ、おいしくないんだもん」

「好き嫌いはだめよ、お味噌汁は栄養あるんだから……」

「いってきまーす」

 お決まりのセリフを言い終わる前に、ぴょこんと椅子から飛び降り、ランドセルを背負って駆け出していく。

「もう」

 ため息をつき、自分も急いで朝ごはんを食べる。

 粉末タイプのインスタント味噌汁はお湯を注ぐだけで簡単にできるし、具も入っていて便利だ。早苗は自分のお味噌汁に手を伸ばす。

 朝の支度を終えて、食卓についた真治も朝ごはんを食べ始める。

「お味噌汁、そんなに美味しくないかなぁ」

「うーん、そりゃちゃんと作ったほうが美味しいとは思うけど……」

 たしかに、具材は少ないし、味噌の味も濃いのかも。

 毎朝ちゃんとお味噌汁を作りたい気持ちは山々だけど、時間がないし。

 そんな中雑誌で見つけたのが、味噌と好きな具材を混ぜ合せて丸めた手作りのインスタント食品「味噌玉」だった。

 

 驚くことに、戦国武将の「陣中食」だったらしい。織田信長も飲んでいたお味噌汁だといえば、歴史好きの風花も興味を示すに違いない。

 さっそく次の休みに風花と一緒に作ってみることにした。

「さぁ、一緒に味噌玉作るよー」

「味噌玉? 何それ?」

「味噌と具材を混ぜ合わせて丸めたものよ。戦国武将の必須アイテムだったんだって。風花の好きな織田信長も戦いの合間に味噌玉食べていたみたいよ」

 昔は味噌を焼いたり干したりして、携帯していたらしい。

「へぇー! おさむらいもたべてたんだ!」

 信長も食べていたと知り、予想通り風花の目が輝いた。

 テーブルには味噌と混ぜ合わせる色とりどりの具材を並べた。

 乾燥わかめやとろろ昆布、茹でたキャベツやしめじ、それからお揚げにネギ。

 華やかなお味噌汁になるよう、にんじんを花形にくりぬいたり、カラフルなあられやお麩も用意した。

「好きな具をたくさん入れてね。そこにお味噌と粉末のダシを加えて混ぜたら、ラップで包んで丸めるのよ」

 早苗が見本を見せる。「じゃあ、風花はこのお花のにんじんと、あられと……」

 見よう見まねで具だくさんの味噌玉を作ってくれた。

 お昼ごはんの時間になり、出来上がったばかりの味噌玉にさっそくお湯を注いでみた。

「わぁー!」

 中に詰めた具材がふわりと色鮮やかに広がっていく。香りも良い。

 自分で作った味噌玉のお味噌汁を口に運ぶ風花。

「おいしいっ! お花のにんじん、かわいいね!」

 良かった! と早苗は胸をなでおろす。

 まとめて作って冷凍しておけば、お湯を注ぐだけで忙しい朝もばっちり栄養が摂れる。

 具材や使う味噌にもいろんなアレンジを加えるようになった。

 武田信玄も使用していたという信州味噌や徳川家康お気に入りの豆味噌など、使う味噌で味も変わって、飽きずに美味しく続けられる。

「おはよう、風花。今日はどの味噌玉にする?」

 味噌玉を取り入れてからは「ハラがへってはイクサはできぬ」とか言いながら楽しそうに選んでくれるようになった。

 真治もこれは美味しいね、と喜んでいる。

 忙しい富永家の朝には味噌玉が必須アイテムになった。

この作品を応援する100円~

応援するとは?

あなたの作品も投稿してみませんか?

応募はこちら

この作者の他の作品を見る