古都に想いを馳せながら

2022-11-23
作者:伊藤有輝子

あれ? なんか身体が重い?

 一ヵ月間の在宅勤務が終わった次の週の朝、最寄り駅の階段を上りきった私の息はすでに上がっていた。

 そういえば最近、寒いのを言い訳に週末もほとんど家から出ていなかった。筋力の衰えを実感し、これはさすがにやばいと焦った。

 筋肉量が減少し筋力が低下すると、体力が落ち、動くのが億劫になり、それによりさらに筋力や体力が低下する、という負のループに陥りかけている。

 何か運動しなければ。

 何かないかな。あまりお金をかけず、なるべく楽にできそうなもの。

「運動不足 解消」

「誰でもできる ダイエット」

 スマホで検索していると、とあるブログが目に留まった。そこには「いきなり激しい運動をすると疲れるし、しんどかったら続かないから、一日二十分くらいの有酸素運動から始めてみましょう。体力がなくても気軽にできる『ウォーキング』がおすすめ!」と書いてあった。

 ウォーキングくらいなら私でもできそうだ。さっそくやってみよう。でも、いつ歩けばいいんだろう?

「朝活はいいことしかない!」と、最近ではいろんな人がブログやTwitterでつぶやいている。そうだ、私も朝活を始めよう。

 朝、いつもより三十分早く起きて、近所を歩いてみた。

 朝は清々しく爽やか、と期待していたのだが、いかんせん家の周りは車通りが激しく、坂も多い。住宅街以外、特に何もない。おまけに、お腹が空いた状態で歩くとフラフラになる。二、三日続けてみたが、面白みを感じられず、やめてしまった。

 じゃあ、夜? いや、仕事から帰ってからなんてしんどすぎて無理だ。仕事終わりにジムに通っている人はすごいなと思う。第一、夜に運動したら疲れて次の日に支障がでそうだ。

 やっぱり私は必要に迫られないと無理だ。

 そこで思いついたのが、朝、乗換駅から会社の最寄り駅までの地下鉄二駅分を歩いてみることだった。歩かないと会社にはたどり着かない、という軽い強制力がいい。どうしてもしんどい日は、途中で地下鉄に乗ればいいし、そばにはバスも走っている。

 よし、今日から歩くぞ! そう心に決めて、少し早めに家を出た。

 地下鉄に乗れば数分の道のりを、今日は歩く。地上に出てまず目に入ったのは「東本願寺」。八百年以上も前に建てられた重要文化財でその大きさに圧倒される。

 五条駅を通り過ぎて、細い路地を歩いてみると、今度は小さなお寺が出てきた。「因幡堂」と書いてある。平安時代からあるというから驚きだ。

 京都の街は歩けば歴史と出会える。平安時代、どんな人たちがこの道を歩いたのだろうか。そう想いを馳せながら歩いていると、歩き始めたときは風が冷たく寒かったのに、会社に着くころには、ポカポカしていた。

 二十分で歩けるくらいのそんなたいした距離でもないのだが「私でもやればできるやん!」というちょっとした達成感があった。

 これを二週間も続けていると、最初はあれだけ必死で歩いていた道のりも、今では汗だくになることもなく楽に歩けるようになり、地下鉄に乗らずに歩いて会社に行くのが日課になった。

 運動は習慣化できるといいというのは本当のようだ。

 身体を動かすことで、毎朝すっきり目が覚めるようになったし、代謝も上がった。なんだか気持ちも前向きになってきたような気がする。

 動いたらすぐ疲れるからと家でじっとしていたころは、よくネガティブなことをうじうじと考えていた。

 しかし最近は、やればなんでもできるような気がして、メンタルも前より強くなったように思う。習慣とはまるで、重い荷物を積んだトロッコみたいだ。動き出すまでは力がいるし大変だが、一度動くと軽快に走り続けることができる。

 毎朝二十分のウォーキングに慣れてくると、もっとレベルアップしたいと、いつもは一日中ゴロゴロしていた週末も出かけるようになった。今週末はどこを目指して歩いてみようか。古都に想いを馳せながら、今日も地図で史跡を探す。

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