「あっ! おじいちゃん、スマホ買ったの?!」
茉奈は、竹造の前に置かれたスマホを見ると大きな目を輝かせて、たたたっと駆け寄った。
いつも週末になると茉奈は貴子に連れられて祖父母の家にやってくる。
孫の写真や動画を送ったりテレビ電話もできるし万歩計もついているからね、と貴子は静代にスマホを持たせたが、竹造は「そんなもんいらん」と頑なにスマホを持とうとしなかった。
ちゃんと使い方教えるから、と貴子に言われ、半ば強制的に渡されたものの、画面に表示される万歩計の歩数もいっこうに増える気配がない。そんな竹造のスマホを茉奈がひょいと手に取り、器用に操作し始めたのを見て目を丸くした。
「おや、茉奈はおじいちゃんより、スマホを動かすのが上手だね」
「いつもママのスマホで写真とか撮ってるんだよ、ほら、こうやって」
茉奈はカメラを自撮りモードにすると、自分と竹造のほうに向け、シャッターボタンを押した。
「ね!」
竹造は茉奈と一緒に写真を撮れたのが嬉しかったようで、ほうほうと言いながら老眼鏡をかけてスマホの画面を覗き込む。
「あ、そうだ! おじいちゃん『ポケモンGO』やろうよ!」
「ぽけもん?」
「ねーママ、ゲームしてもいいでしょ?」
このままスマホに興味を持ってくれるならと思い「いいわよ。でもママのスマホでするときと同じ、一日三十分までだからね」と、竹造のスマホにインストールした。
アプリを開くと、画面にポケモンが現れる。
「ポケモンが現れたらこうやって、モンスターボールを投げて捕まえるの」
慣れた手つきで画面を操作し、ボールを投げてポケモンをゲットする茉奈。
捕まえたポケモンは、育てたり交換できたりするらしい。
竹造にはなんのことだかさっぱりだったが、茉奈が楽しそうに遊んでいるので「そうかそうか」とうなずきながら茉奈の話を聞いていた。
「お家の中にはもういないね。あ、近くにポケストップがある! おじいちゃん、行こう」
茉奈に付き添って、竹造は近くの公園に出かけた。
茉奈からモンスターボールの投げ方を教わり、竹造もやってみる。何回か失敗したが、ついにポケモンをゲットした。孫と一緒に遊べるならスマホも悪くないなと竹造は思った。
そしてまた週末がやってきた。
貴子に連れられて家にやってきた茉奈はさっそく「おじいちゃん、ポケモンGOやろー!」と竹造のスマホの画面を覗き込む。
「あれ、このポケモン、いつ捕まえたの?」
茉奈は図鑑を見て不思議そうに言う。
「ああ、それはな、家の庭で捕まえたんじゃよ」
竹造が縁側でスマホをいじっていたらたまたま現れて、あわてて捕まえたやつだ。
「へぇー! これ、結構珍しいポケモンなんだよ。やったね!」
なんて話をしながら、今日も茉奈は竹造と近所に散歩に出かけた。
公園でポケモン探しをして家に戻ってくると「おじいちゃん、来週茉奈が来るまでにたくさん捕まえておいてね」 と茉奈はそう言って、貴子と一緒に帰っていった。
次の日、竹造はスマホを手に取ると「ちょっと出かけてくる」と言って、家を出ていった。
「あらまぁ、いつも家から出たがらない人が珍しい」
静代は目を丸くしながらも、微笑みながら竹造を送り出した。
フィールドマップというゲーム内の地図が実際の地図と連動していて、いろんなポケモンが出てくるらしい。スマホを見ながら歩くのは危ないので、竹造は地図に載っているポイントまで行き、ポケモン集めに精を出した。
いつもなら家に置きっぱなしでまったく変わらなかった万歩計の数字は、五百歩、千歩と日に日に伸びていった。
「茉奈が来るまでにたくさん捕まえてレベルアップさせとかんとな。お、こっちに珍しいポケモンがおるのか、今日はちょっと遠くまで行ってみるか」
今までは家にこもってテレビばかり観ていた竹造だったが、週末になるとやってくる茉奈のためにと、せっせとポケモンを集めておくのが日々の楽しみになった。
この作品を応援する100円~
あなたの作品も投稿してみませんか?
応募はこちら