おばあちゃん「音ゲー」にハマる♪ 【作者:戸田友里】

「じゃ~ん」

おばあちゃんが満面の笑みでタブレットを手に持っている。

最近ハマっているゲームをするため買ったのだと、すぐに察しがついた。

うちのおばあちゃんは、イケメンとイケボが大好き。

ジャニーズのメンバーなんか私よりよく知っている。

一年くらい前までは、まったくそんな人じゃなくて

どちらかというと控えめな、どこにでもいるおばあちゃんだった。

おばあちゃんが変身したのは、おじいちゃんが死んじゃってからだ。
食べない、動かない、しゃべらない…

一日背中を丸くしてボーっと座ってるだけ。

会話もほとんどなく、両親も、親戚も、近所の人も、どうしたらいいものか……って心配していた。

ある日、いつものようにソファに座っていたおばあちゃんが

「いい声だね~。おじいちゃんの若いころの声にそっくりだよ」

そう言って、急にテレビから聞こえる声に反応したので、

部屋にいたみんながいっせいにおばあちゃんを見た。

おばあちゃんは目を閉じて声に聞き入り、すごく幸せそうな顔をしていた。

テレビでは最近人気の男性ボーカリストが歌っていた。

おじいちゃんの声と似ているかわからないけど、低音が響く少しハスキーな声はたしかにイケている。

おばあちゃんはその日から、

テレビから聞こえてくる声(イケボ)に敏感になった。

声だけじゃなく、イケメンだったりすると笑顔は五割増しだ。

ある日、人気のアニメソングで音ゲーをやっている私の横にきて

「あぁ、いい歌声だね~」

と言って、やっぱりイケボにうっとりしてた。

「おばあちゃんもやってみる?」

私はできる限りスローテンポな曲を選び、設定も最大限に優しいレベルに変え、やって見せながら説明した。

「まず、上から落ちてくるこれがノーツ。これをよく見ててね」

「これは、タッチするだけ。こっちは弾いて、この色が来たら同時にタッチ!」

「わ~、覚えるだけでも大変だね」

「何度かやるとだんだん慣れてくるよ」

「そうかい?じゃあちょっとやってみていい?」

落ちてくるノーツを見逃さないよう、人差し指を構えたまま画面を凝視している。

テーブルにスマホを置いて準備オーケー。

この際スタイルはなんだっていい。

スタートボタンを押す。

落ちてくるノーツをタッチするものの、遅い……

やっぱり、ほとんどズレてる…

「うん。えい!あっ、よっと、あぁ~」

歌声が聞えないくらいおばあちゃんの声が響く。

結果、ほとんどタッチがズレてしまってスコアは出なかった。

「はぁ~、歌を聞いている余裕なんかなかったよ……でもこれ面白いね~」

「でしょう?もっとおばあちゃんに合った曲がないか探してみるね」

父さんは、スマホのゲームは目に良くないからって、否定的だった。

だけど「音を聞いたり、見たものに反応したり、それに手先を使うと脳が活性化されて認知症予防になるかも……」って母さんがフォローしてくれたことで、渋々了承した。

ただし、ちゃんと時間を決めて、ゲームのあとは目を休めること。

嫌な予感はしていたが、私も一緒に約束させられた。うっ…

そもそも楽しそうなおばあちゃんを見ていると取り上げられるわけがない。

しかも、以前にも増して表情がイキイキしている。

おばあちゃんによると、ゲームもイケボもドキドキして気持ちが若返るんだとか。

おばあちゃんはすっかり音ゲーにハマり、ついには、お気に入りのグループのライブ映像を使ったゲームにチャレンジすると言い出した。

スマホじゃ小さいから……とタブレットを買ったのもそのためだ。

さっそく、大きくなった画面でゲームを始めた。

「あ~~~ッ!ムリ~!」

「どうしたの?おばあちゃん?」

「推しメンがでてきたらついそっちに目がいっちゃう……」

んんっ?

ノーツから目を離しちゃうわけね。イケメン好きのおばあちゃんらしい。

そんなおちゃめなおばあちゃんが私は大好き。

「いつか一緒に推しメンを見にライブに行こう!」

そう言ったら、ずっと元気でいてくれるかな。

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作者:戸田 友里