「寒い…。空腹だ……」
空き地に放置された逆さまのビールケースに潜り込み、体を震わせる。
食べ物を探しに行きたいが一度姿を現せばニンゲンたちは罰だなんだといっておれをいじめたりちょっかいをかけようと追いかけてくる。
そのせいでおれは痩せ細った体に、ゴワゴワの黒い毛を纏った黒猫だ。
やつらにはこんなおれがバケモノにでも見えているらしい。
「ここまでなのかもしれない…」
力なくぼんやりそう思ったときだった。
スンスンスンッ、ワン!
「なんだ、カンタロウ。そこに何かいるのかい?」
でかくて黒い犬コロとニンゲンの気配が近づいた。
逃げなければ。
そう思ったと同時におれの意識は冷たい雨水に溶けていった。
次に目が覚めたとき、おれはすごく硬い床の上で浴びたこともないほどの
眩しい光にさらされていた。
「あぁ!--った! まだ--てる!」
犬コロと一緒にいたニンゲンの声がする。
白い服を着たニンゲンと何やら話したあと、おれの体は白いニンゲンに抱え上げられ
嗅いだことのない泡を塗りたくられ、温度のある水で攻められた。
「やめろ! やめろよ…!」
おれは必死で抵抗するが、白いニンゲンには効いちゃいないらしい。
水で攻めるのが終わったと思ったら今度はものすごい風にさらされ
それが済むと何やらちくりとした痛みを受け、首に何かを垂らされた。
「今日は--かくして--ください。」
「はい、--ました!」
白いニンゲンは一通りいじめると柔らかい布におれを包み、犬コロのニンゲンに渡す。
「あぁ、おれはこのニンゲンに捕まってしまったのか」
諦めにも似た声が漏れ出る。
「そう、今日から僕らと一緒だよ。」
一瞬、ニンゲンがおれの声に返事したように聞こえて驚いたが、
いや、きっと気のせいだろう。おれの言葉がわかるはずはない。
そこからおれは檻に入れられた。そのまま犬コロのニオイのする建物に連れてこられ
檻を置くなり、やつらはゆっくりとおれの檻に近づいてきた。
「来るな!」
シャッ!
「いっ!?」
勢いよく引っ掻いたおれの爪がニンゲンの手を掠める。
思ったより深く入ったようで手の甲からは血が滲んでいる。
「おれに近づくからだ!」
おれは抗議の声を上げた。
ニンゲンの横にいた犬コロが「何するんだ!」と吠える。
しかし
「そうだな、いきなりは驚くよな。ごめんよ〜」
ニンゲンはそう言いながら檻に素早く水を置き、扉を閉めてどこかへ行った。
なんでおれはこんなところに閉じ込められなきゃならないんだ。
「おい、犬コロ。おれをここから出せよ」
まだ檻のそばにいる黒い犬コロに声をかけてみる。
「やだね、ご主人を攻撃するようなやつの言うことなんて聞かないよ。」
「なんだと!元はと言えばお前らがおれを捕まえるから悪いんじゃないか!」
“捕まえなきゃキミは死んでたかもしれないんだぞ!?それにご主人は悪いニンゲンじゃないよ!”
“知ったことか! お前どうかしてるよ!ニンゲンはおれらをいじめるんだぞ!?”
檻を挟んで口論をしていたせいかどこかへ行っていたニンゲンが
戻ってきてしまった。
「やい、ニンゲン!おれをここから出せ!」
おれをいじめる存在から一刻も早く逃げ出したい。
「残念だけど、出してはあげられないなぁ…」
困ったような笑顔でニンゲンが返してくる。
やっぱりコイツ、おれの言ってることがわかっているらしい。
「だって、さっきの超痛かったもん。キミもちょっとは罰を受けてもらわないと割に合わない」
「罰ってなんだよ…。おれは悪くないからな…!」
じりじりと近寄ってくるニンゲンに後退りをする。
ほら、犬コロ。やっぱりコイツ、おれをいじめるんじゃないか。
犬コロを睨みつけるが、ブンブンと尻尾を振っている。
本当にどうかしてやがる。
「キミの罰はこうだ! 毎日僕の出す美味しいごはんを食べて、カンタロウと一緒にあったかいハウスで寝て、そんでもって毎日僕らと元気に遊ぶこと。」
「……は?それが罰だと?」
拍子抜けもいいところだ、そんな罰、聞いたこともない。
「それを逃げずにずっと続けるんだ。それがキミの罰。」
「それは、罰じゃない。これじゃあまるで……」
「家族だ。今日からキミは家族。僕らのおうちへようこそ」
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