「「おーい!エリック〜!遊ぼうよ〜!」」
天気の良いホリデーの午前中。
玄関のチャイムも鳴らさず、自宅前の道から二人分のでっかい声が聞こえる。
俺は重たい体を起こして自室の窓を開け、声がするほうを見た
「ケヴィン、キース、俺はインドア派だって何回言ったらわかるんだ」
毎度よく飽きないもんだ。こんな出不精を外遊びに連れ出そうなんて。
やれやれと思っていると意外な返事が来た。
「ちょうどよかった!今日はエリックと部屋の中で遊ぼうと思ってさ!」
ケヴィンは大きく手を振り
「エリックが勝ったら突撃するのを控えてあげるよぉ!」と言った。
キースは何やらグルグル巻いたマットのようなものを抱えている。
ん……?というか控えてやるってなんだよ。そこは完全にやめてくれよ。
「……ハァ、わかったよ。今ドアを開ける。」
いつものように外遊びの誘いなら「出ない」の一点張りで追い返すことも
できたのだが、室内遊びに譲歩されたことと俺が勝った時の報酬内容に釣られ
今回は了承することにした。
「で、何して遊ぶんだ?」
「よくぞ聞いてくれましたぁ!」
「僕らが改造した究極の室内遊び!」
「「改造ツイスターで〜す!」」
その瞬間、バッとマットが床に敷かれ、黒い布地にランダムに描かれた赤や黄色のドット柄が目に飛び込んできた。
「…ツイスター?」それって面白いのか…?
改造とはいえお題の場所に手足を置くだけだろ?なんだか地味そうだ。
「まあ、まずは僕と対戦してみようよぉ!」
肩を掴まれマットの端に立たされたキースは俺の対岸に立った。
「お!じゃあ僕が審判か!お題はこれで決めるからね!」
そう言ったケヴィンの手にはいつの間にか両手足のイラストとドットの色が描かれたルーレットがあった。
「いくよ〜!最初のお題は…」
ギュルル!と勢いよくルーレットが回る。
「右手が赤!左足が青!」
俺は自分の近くにある赤と青のドットにお題の通り手足をつける。
近場だったからかまるでゴミでも拾っているかのような格好になっている。なんだ、案外楽だな。
「次は、右手が黄色!左足が緑!」
前言撤回、俺の顔がヒクッと一瞬引き攣った。
「しまった、もう少し楽な位置を探せばよかった」
軽い気持ちで触れているドットの位置を変えようとしたのだが、
ランダムに描かれたそれらは存外離れていたようで先ほどより少しキツい体勢になってしまったのだ。
「じゃあ次!左手が青!右足が黄色!」
手近な色を探していたら視界の端からスッとキースの手が伸びて
狙った青のドットは取られてしまった
「うぐ……っ」
ようやく触れた青ドットのおかげで俺のポーズは壁に張り付く蜘蛛のヒーローみたいになった。
プルプルしながらキースを見ると軽いストレッチをしているかのようなポーズで余裕そうだ。
俺の視線に気づいたのかキースがこちらを見て言った。
「エリック大丈夫ぅ〜?」
ニコニコと楽しそうな顔をしてやがる。
ちくしょう、やられた。俺の中にわずかに残っていた闘争心に火がついた。
唸れ、俺のなけなしの筋肉!ここで負けるわけにはいかない。
次のお題では必然的にキースとぶつかるポーズになった
「あはは、エリックのお腹気持ちいいねぇ〜」
「このやろ…っ!」
文句の一つや二つ返したいところだがこの一言が限界だった。
今日ほど俺のダイナマイトボディが憎らしいと思ったことはない。
そこからはプルプルと悲鳴を上げる全身の筋肉に鞭を打ちゲームを続けたが
溜まる負荷に耐えきれなくなりあっさりと負けてしまった。
「どうだったエリック?なかなか楽しかっただろう?」
審判として楽しんでいたケヴィンが大の字に転がる俺を覗き込んだ。
「あ〜、外遊びより、マシ。だけど……遊ぶ、前にプロテインが必要って
注意書きが……欲しかった…」
ゼーハー言いながら俺は精一杯のジョークをケヴィンに吐き捨てる
「あ〜ぁ…負け、ちまったなぁ……」
大の字に転がって息が整わないままの俺は呟く。そう、この勝負に負けたのだ。
またこの双子に外に連れ出される日々が続くのか…。
「うんうん、負けたねぇ〜。でも、この勝負、一回限りじゃないよ?」
「……は?」
キースの返答に間抜けな声を出してしまった。
「そうそう、このゲームにエリックが勝ったら外には誘わないさ」
ケヴィンが続ける。
「言ったな……?インドアの本気、見せてやるよ」
その言葉に先ほどまで消えかけていた闘争心に再び火がついた。
まぁ、この双子にまんまと乗せられていたことに気づいたのは
俺がすっかり標準体型になり、初めて彼らに勝利したときだった。
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