爆唱!全力で歌ったら運動嫌いでも痩せた件。

2022-11-16
作者:谷口 知愛

「だって別⼈に⾒えたんじゃもん……」

久々に帰省してきた娘の早紀が助⼿席でぼやく。

いやこないだまで… いやほら、ぽっちゃりだったじゃん…

そう私をまじまじ見ながら信じられないものを見ているかのように

ぶつくさと言っている。

そんな早紀の姿を横⽬に私は「もぉええって」と

苦笑いしながら運転する。

「へいへい」と言いながら早紀は座り直す。

「でもさ、なんでそんなに痩せたん?ジム?」

万年運動ギライな⺟さんが? と早紀は余計な一言を忘れない。

誰がこんな娘に育てたというのか……あ、私か。

なんて頭の中で独り言。

まぁそのくらい見た目が変化したのはたしかだ。

かつては七十キロ超えのいわゆるぽっちゃりおばさん体型だった私は

今では五十八キロの平均的な体型になり、着る服も身のこなしも変わってきた。

「あぁ〜、私も痩せた〜〜い!どうやって痩せたのか教えてよ〜」

聞けば早紀はこの自粛生活で見事にコロナ太りしたらしい。

「仕方ないな〜」

と言いつつ私はハンドルをいじりオーディオを再⽣させる

途端。

ジャ〜ン♪

これでもかというほどの⼤爆⾳がスピーカーから溢れてくる。

ウーファーが鳴り響きビートで若⼲振動すら感じる前奏の途中で

「♪Ahhhhhh〜〜〜!!!!!!」

⾳楽に負けないほどの声量で私はシャウトし始める

早紀は何が起こっているのかわからないといった顔をしているが

その間にも前奏は続き、最初のメロディが始まる。

そのままノリノリで『ハイウェイ・スター』を歌い上げる。

それはもう潔いほどの爆唱をかましていく。

早紀が呆気に取られているうちに曲が終わり私は若⼲爽やかな汗をかきながら言った。

「ってことなんよ!」

「いやいやいやいや!わからん、わからん!」

早紀の素早いツッコミが入る。

「爆唱するんと痩せたんはどう関係あるん?」

「腹式呼吸よ腹式呼吸!ほら、⺟さん運動キライじゃろ?でもええ加減痩せにゃな〜って思っとったんよ」

そう⾔いながら今はシュッとしているお腹をぽんぽん叩く。

「で、思い付いたんが『思いっきり歌う』こと!昔コーラスグループに⼊っとったとき、『腹式呼吸で歌うのも立派な有酸素運動よ』って先⽣が⾔っとったのを思い出してな」

そう⾔いながらまたカーオーディオを触る。

今度はRedfooのゴキゲンなナンバーがかかる。

「はぇぇ……またパリピな曲を……」

早紀は心底意外そうな顔で私を見る。

そう言えばさっきも、駅で私を見るなり「パリピじゃん!!」と大声を上げられた。

今までは体型がバレないようなオーバーサイズの服ばかり着ていたのに、今ではシュッとしたジーパンにジャストサイズのパキッとした色のTシャツ、それにヒールは高くないがパンプスを履いているのがよほど意外だったらしい。

「パリピって…まぁいいや。それで通勤中の⾞ん中で思いっきり歌ってみたんよ、一年くらい。

そしたらアンタ、ゆるゆるとだけど着実に体重は落ちていくし、ストレス発散にもなるし、もう⼀⽯⼆⿃よ!」

そう、腹式呼吸で歌っていると腹筋や横隔膜を動かすからそこの運動になるしなんだか最近代謝も良くなってきた。

「え、何それ良いことばっかりじゃん!」

早紀が前のめりに食いつく。

「あ、でも私、向こうに戻ったら歌う場所ないじゃん。車ないし…」

ふと現実に⽴ちかえったようで、すぐさましょんぼりする。

ちょっとハードルが… などとぼやいている

「何⾔っとるんよ、それなら家で”⿐歌”歌えばええし、⾃然に腹式呼吸になるしちょうどええよ〜?爆唱するんも別にカラオケでええが?」

そう、今どきは「ヒトカラ」なんてものもある。

「よし!私も歌って有酸素運動して痩せよ!!」

そこから実家に到着するまでの車中、早紀とノリノリなナンバーを爆唱しながら帰った。

翌⽇、早紀は起き抜けに適度な疲労感と筋肉痛を感じたようで

とりあえず「アンタもまだまだね〜」と笑っておいた。

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