脳活大フィーバー

2022-07-20
作者:正田 由香里

「十連鎖……よし、このままいけば優勝だ。すごい、特訓の成果が出ている。じいちゃんがんばれ!」

今日は、町内会の「テレビゲーム大会」。

子どもからお年寄りまで集まってみんなでにぎわっている。

このゲームのおかげで地域の人との交流は増え、独りぼっちになる高齢者は少なくなった。それにかなり高齢でも元気でしっかりしている人が多くなった。

こうなったのは、数年前のあの日がきっかけだ。


僕が小学五年生だったある真夏日の昼下がり。

セミがうるさいくらいに鳴いていた。

「ゲームが認知症予防になります!ぜひ町内で取り組んでみてください!」

そう言ってとある有名なゲーム会社の社員・小川真が当時の町内会長だった僕のじいちゃんにハンカチで汗を拭いながら説明していた。

僕はアイスクリームを食べながらじいちゃんとの会話を聞いていた。

「このゲームを地域のみなさまで取り組めば、脳の活性化につながりますし、地域の交流にもなります。ぜひやってみませんか?」

じいちゃんは、頑固だから「ゲームは目に良くない」だの「くだらない」だのと言って小川さんの提案を受け入れず部屋から出ていった。

僕は溶けそうになっているアイスを舐めながら小川さんに話しかけた。

「じいちゃんたちにゲームなんて無理だよ。覚えられないよ」

すると小川さんが目を見開いて僕にぐいぐい近寄ってきた。

「ボク、そんなことはないよ!高齢者だからできないとか、決めつけたらいけないんだ!時間がかかってもしっかり教えればできるんだ!あと、こういう取り組みをしている地域が他にもあってね……」

口をポカンとあけている僕を無視して、汗を流しながら三十分以上熱弁をふるった。

僕の手は溶けたアイスでベタベタになった。

次の日も小川さんはやってきた。今度はゲーム機とソフトを持ってきた。

ゲームはテレビゲームで実戦する「パズルゲーム」だった。

「じいちゃんやってみようよ」と僕は話しかけたが、反応がない。

仕方がないので小川さんとしばらく遊んでいた。

そこに麦茶を持ってばぁちゃんがやってきた。

「朗、そのゲームはなんだい?なんだか面白そうね」

「これはね、パズルゲームなんだ。簡単なレベルのやつもあるから、一緒にやってみない?」

「私にもできるかしらね?朗、教えてくれるかい?」

数日後、ばぁちゃんはコツをつかんで僕が教えなくてもできるようになった。

小川さんの言った通りだ。

若くないからできないと決めつけてはいけないんだ。

それでもじいちゃんは相変わらずだった。

僕はゲームをしているばぁちゃんの肩をトントンと叩いて、ヒソヒソ話をした。

「ねえ、ばぁちゃん、じいちゃんがやらないって言い張ってるんだけど、なんでやらないのかなぁ」

すると、ばぁちゃんが大きな声で「じいさんがやらないのはできないのが恥ずかしいからでしょ」と言った。

すると、近くにいたじいちゃんが立ち上がって、

「うるさい!わしだってできる!」とばぁちゃんのコントローラーを奪った。

このあと、二人は大げんかを繰り返し、そのまま二人してゲームの沼にハマっていった。

コツをつかんだじいちゃんは、さっそく町内の人を自分の家に集めて「テレビゲームをしよう」と提案した。

それ以降、しばらく町内ではテレビゲームブームがフィーバー。

さらに月に一回、ゲーム大会が行われるようになり、それをみんな生きがいにして毎日を過ごしている。

*

あの日小川さんが来なかったら、この町はどうなっていたのだろう。

ゲームは若い人がするもの。そんなイメージしかなかった。

ゲームには魅力がいっぱいある。

僕は将来、あのときの小川さんみたいにみんなを元気にする仕事ができたらいいなって思って新たなフィーバーを巻き起こすゲームを作るためプログラミングの勉強をしている。

おわり

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