私たち姉妹は目の前にある山積みの段ボールをただ茫然と見つめている。
ここにはキャベツが入っている。
「お姉ちゃんごめん……発注数量間違えちゃったみたい」
「だからいつも最後きちんと確認しなさいって言ってるでしょ」
キャベツを見ながら目を合わせず無表情で会話をしている。
私たち姉妹は今年からキッチンカーでお弁当を販売している。
幼いころから両親は働いていて、ご飯は自分たちで作るようになっていた。
なので料理は得意なのだ。
昔から「二人でレストランか食堂をやりたい」という夢を持っていて、ある程度お金も貯まったので、まずはキッチンカーでやってみようということになった。
普段はお昼ご飯時に東京のオフィス街にたくさんのキッチンカーに混じって出店している。
いつもは二人で考えたお弁当を日替わりで販売していた。
「とりあえずキャベツがなくなるまで、キャベツメインのお弁当を出そう。あんたの責任だからちゃんとメニュー考えて」
「……わかった」
間違えたのは自分だから反論できない。
その日は食材を倉庫に押し込み、私は家に帰った。
夜、家で休む間もなくメニューを考え始めた。
ふと昔の思い出が脳裏によぎった。
私は小さいころから胃が弱くて、母はいつも決まってキャベツを出してくれていた。
何もわからずに言われるがまま食べていたが、あとで聞いてみるとキャベツにはビタミンUが多く含まれていて、胃や腸の粘膜を丈夫にしてくれたり、荒れた胃を健康に保ってくれる役割があるらしい。
食物繊維も多く含まれているので、私にぴったりの野菜だ。
それにカルシウムや葉酸なども含まれているので、いろいろな不調に悩んでいる人にも打ってつけの食材かもしれない。
かさ増しにもなるし、ダイエットをしている人にも響くかも。
調べてみたら、キャベツを使ったレシピが山のように溢れていた。
アレンジ自在なのもキャベツの魅力だろう。
姉と相談し、日替わり弁当の献立すべてにキャベツを使うことにした。
副菜はキャベツとにんじんのコールスローサラダ。
主食はキャベツの芯と米と一緒に炊いて、じゃこを混ぜてカルシウムがいっぱい摂れるような炊き込みご飯。芯は実は甘くておいしいのだ。
これでキャベツをまるごと使えるレシピになるというわけだ。
あとは、キャベツを使った日替わりお味噌汁かスープ。
主菜も日替わりでロールキャベツやキャベツの豚肉巻き、鮭と味噌バター炒めなど、偏らずさまざまな料理でキャベツのおいしさが味わえるものを提供することに決めた。
看板を立てかけるときに「キャベツを余すことなく使ったお弁当です」と書いた。
そうすれば物珍しさでお客さんがたくさん買ってくれるかもしれない。
SDGsもちょっと意識。
しかし「へー」と言ってくれる人はいたが、そのまま通りすぎてしまい、たくさんの購入にはつながらなかった。
「売れなくて赤字になったらあんたのせい」と姉は嫌味を言った。
お弁当の見た目は悪くないはず。
だとすれば伝え方か……。
私はハッとした。
実はキャベツの良さなんてみんな意外と知らないのではないだろうか。
私も母に教わるまで知らなかったのだ。
伝え方を変えてみた。
「食物繊維、カルシウムも摂れるキャベツを使った日替わり弁当!!胃腸の調子を整えるからダイエットにも効果的!」
ちょっと欲張って書いてみた。
すると、ランチタイムの女性がたくさん立ち寄ってくれるようになった。
聞いてみると、ダイエットなどで日々の昼食にも気を遣っている人が多いらしい。
「こういうお弁当、嬉しいです。忙しくてなかなか栄養バランスのことが考えられないので」
「買いにはくるけど、ボリュームがあるものが多くていつも食べ切れない」
「野菜がメインだからカロリーも低そうだし、罪悪感がなくていいわね」
たしかに昔、私たちも栄養バランスにはいろいろ悩まされて食事を作っていた。時間もかかるし、忙しい会社員の人にとって手間に違いない。
それを手軽に解消できるものを今後も販売していけばいいのか。
こうして一週間が経ち、なんとか無事にキャベツを使い切ることができた。
だが、なぜかまたてんこ盛りに食材が届いてしまった。
今度はピーマン。
ああ、姉の視線が痛い。
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