小さな習慣でダンディな父ちゃん【作者:正田由香里】

二週間後、変化が現れた。

いつもよりベルトの穴を一つきつく締めることができた。

「おお、これは嬉しい」

自分の小さな変化に喜んだ。

毎日一分でこんなに引き締まるとは……

「父ちゃん、明日からもう迎えに来なくていい」

娘の莉奈にそう言われたのはちょうど一ヵ月前、塾の迎えに行ったときだった。

「どうして?」

「……」

そのあとから莉奈は俺に話しかけなくなった。

俺は最初、反抗期かなと思ってあまり気にしないでいた。

ある日の風呂上がり、リビングで妻と莉奈が話している声が耳に入ってきた。

「父ちゃんが太っているのは母ちゃんがいっぱい食べさせているせいじゃないの?周りの友だちのお父さんはみんな引き締まっているのに、なんで父ちゃんだけ太ってるの?カッコ悪くて嫌だ!」

俺はかなりショックを受けた。

娘に恥ずかしい思いをさせてしまっていたのか……

たしかにここのところ、深夜にラーメンを食べることも増えてしまっていた。若いころはそれでも太らなかったが、今はまるで風船のようにお腹が膨れてしまっている。

トボトボと寝室に行き、重たい体をベッドに沈ませる。

この体、なんとかしないと。

大きなお腹を撫でながら考えていたら、いつのまにか眠ってしまっていた。

翌日、昼休みに同じチームで後輩の上田に悩みを打ち明けてみた。

「たしかに年齢とともに痩せにくくなってきましたよね。僕も食事とかに気を遣うようになりました」

「全然太ってないよね。ジムとか通ってるの?」

「僕ですか?ジムには行ってないですよ。コロナ禍だし、奥さんに止められてて」

「そうなの?それでなんでそんなに引き締まってるの?」

「あー、毎朝一分プランクを毎日続けているからかもしれません。トレーニングウェアを着なくても手軽にできますし。ちょうど在宅ワークに切り替わったときに始めて癖になっちゃってやらないと気持ち悪いんですよ」

「一分だけ?そんなんでいいの?」

「毎日何もしないよりは一分でもしたほうが効果あると思いますよ。簡単そうに見えて、意外ときついです(笑)僕も最初は全然できなかったんですけど、毎日続けていたら余裕で一分超えられるようになりました」

「俺も今日からやってみようかな……」

家に着き、さっそくプランクに挑戦しようとプランクのやり方が書かれているサイトを見ながら姿勢を確認した。

「えーっと、両手両足を肩幅に開く。肘と爪先の四点に重点を置き、肘から下で補助的に体を支える。そして、背中のラインが真っ直ぐになるように、お腹とお尻に力を入れる……よしやってみよう」

一分間タイマーをセットしスタートボタンを押す。

「うっ!」

腕とお腹がプルプルしてきつい!体が重い!もう無理だ……!

バタっ。

その場に倒れ込んだ。顔を真っ赤にして激しく息切れ。

まだ十秒も経っていない……なんて情けないんだ。

翌日、上田に早速話した。

「やっぱり俺にはできないのかな……」

「笹本さん、諦めるの早すぎます!僕も最初は同じでした。最初は膝をついてもいいみたいなので、まずはそこからやってみてはどうですか?」

帰宅後、上田に言われた通り、膝をついてやってみた。

たしかにこれならお腹とお尻に力を入れてもなんとか一分はできそうだ。

やり始めて三十日が経った。

今では膝をつけなくてもプランクができるようになった。

引き締まってきたおかげで姿勢も良くなって、ぽっこりとしていたお腹も徐々に解消された。

周りからも「笹本さん痩せましたね」なんて言われるようになった。

体重自体は実はそんなに変わっていない。しかし、プランクのおかげで見た目を変えることができたのだ。

さらに、引き締まってきたおかげでメンズ雑誌『OCEANS』のようなカッコいいの服を着こなせるようになってきた。

毎日たった一分続けただけで、こんなにも効果があるとは。

着実に変化していくのが嬉しくて食事にも気を遣うようになった。こってりとした食事はなるべく避けるように心がけた。体が軽くなったおかげか、仕事もスピードアップできるようになっていた。

そんなある日の夕方、LINEに一通のメッセージが届いた。

「父ちゃん、今日、塾のお迎えに来てくれる?」

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作者:正田 由香里