取り戻せ!昔の自分たちを

2023-03-22
作者:石田 里沙子

暖かな日の光が我が家のリビングに差し込む。

「今日はすごくいい天気ね!」

こんな天気の日は、思いっきり体を動かしたい気分になる。

が……そんなウキウキした私の気持ちを到底わかってもらえそうにない二人がそこにいた。一人はリビングの床に寝転びながらテレビを観ている夫。もう一人はソファに座りながら黙々とスマホゲームをしている息子。

このコロナ禍で会社と学校どちらもリモートが当たり前になった。

当然ながらめっきり外に出る機会は減り、それに伴ってほとんど運動をしなくなっていた。

二人とも、特には気にしていないようだが、以前より太ったと思う。

見かねた私は、二人に向かって話しかけた。

「ねぇ、こんなに天気のいい日くらいたまにはみんなで体を動かしてみない?」

途端、二人は冷めた目で私を見ながら口々に言ってきた。

「え……せっかくの日曜日なんだからゆっくりさせてよ。運動なんかいつでもできるんだし。なんなら、一人で走ってきたら?秀治と留守番しておくからさ」

「そうだよ、ママ。コロナ禍だから今は、目的もなく外を出歩いたらいけないんだよ。家でゆっくりするのが一番だよ」

期待はしていなかったけど、体を動かしてみようという気持ちが微塵もないことがわかった。

そこで私は密かに用意していたあるものを二人の目の前にドンッと置いた。

二人はびっくりしながら「何これ?」「ゲーム?」と言った。

そう、この二人の体をどうにか動かすためにはみんなでできて、それでいて家の中で楽しめるスポーツじゃないといけない。

「これはね、手足にコントローラーを装着するだけで、家の中にいながらテニスだったりサッカーだったりいろいろなスポーツが楽しめるゲームなのよ!」

秀治は根っからのゲーム好きなので、私の言葉を聞くなり目をキラキラと輝かせていた夫は相変わらず面倒くさそうな顔をしている。

「さぁ、みんなでやるわよ!」

さっそくやってみると、思っていた以上に全身を動かすゲームで、本当に外でスポーツをしているかのような気持ちになれた。汗も滝のように流れ出る。普段から比較的体を動かしている私でも結構しんどい。

秀治は若いだけあってそこまで疲れていないようだが、夫は少しやってみただけで、もうヘロヘロになって座り込んでいる。

家族みんなでこんなに汗を流すほど必死になって体を動かしたのはいつぶりだろうか。

家族みんなでこんなに笑ってはしゃいだのもいつぶりだろう。

コロナ禍によって消えかけていた笑顔が少し戻ってきたように思えた。

二人とも、「もう疲れた~」なんて言いながらいい汗を流し、キラキラとした笑顔で体を動かしている。

私はそんな姿を見て、微笑ましく思ったと同時に、以前は休みの日になるたびにみんなで外へ出かけて楽しく運動していたことを思い出した。

「また、以前のような日々に戻れたらな…」

疲れ切った二人に、冷えた特製のはちみつレモンドリンクを出した。

運動後の疲労回復に効果的なクエン酸と体から失われた糖分を補給するのにぴったりなドリンク。

以前はよく作っていた。

出すなり、二人はあっという間に飲み干して、その後しみじみとつぶやいた。

「この味、すごく懐かしい感じがするね」

「本当だな、懐かしい」

「なんか…運動することっていいな。ゲームだからってなめていたけど、久しぶりにちゃんといい汗流せたし、本当に良かったと思う。改めて気づかせてくれてありがとう」

夫から思いがけないことを言われて、私は驚いた。

「体を動かすことってこんなに気持ちのいいことなんだね!」

秀治も普段はあまり見せない満面の笑顔を見せてくれた。

それからというもの休みの日になると秀治の誘いもあって、家族そろってゲームをすることが当たり前になった(嫌がる夫は、ほぼ強制的に……)

その甲斐あってか三ヵ月後、二重顎になっていた二人の顎はスラリとし、それを機に夫は本格的にダイエットすることを決意した。

体を動かすことは、体の健康だけでなく、心の元気にもつながるもの。

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