ジリジリと照りつける夏の日。アスファルトから湯気が出てきそうなほど、太陽の光が差し込んでいる。
その上を額に汗を浮かばせながらおじいちゃんに手をひかれて歩く。
「さ、着いたよ!」
おじいちゃんに連れてきてもらった場所は蔵みたいな場所だった。
中に入るとすでに何人かが集まっていた。
「田中さん、また今年もよろしくお願いします」
「孫の隼です。今年から鉦デビューになりますんでよろしくお願いします」
おじいちゃんは集まっていた人たちに挨拶をしながら、ボクの紹介をしていく。
「隼です。よろしくお願いします」
自分以外大人ばかりの空間に少し緊張してしまい、おじいちゃんの影に隠れながら挨拶する。
「もう隼くんも十歳か~、早いな!」
周りのおじちゃんたちはボクの顔を覗き込みながら話しかけてきた。
そうこうしていると続々と人が集まってきた。
「では、そろそろ始めますので、みなさん集まってください!」
おじいちゃんと同じくらいの年齢の人が大きな声で周りの人を集め始める。
「みなさん、おはようございます」
「今年はこのメンバーで祇園祭でのお囃子を担当しますので、よろしくお願いします」
その声とともに全員が「よろしくお願いします」と挨拶する。
挨拶が終わると各楽器に分かれて練習を開始した。
おじいちゃんに家で教えてもらっていたが、自分以外はみんな年上ばかりで緊張は続く。
笛のところで練習しているおじいちゃんに目をやり助けを求めてみるが知らん顔された。
周りの子の動きに合わせてついていくのがやっとだった。
この日から本格的に祇園祭の本番に向けて練習の日々が始まった。
初日の練習が終わり、おじいちゃんと練習の様子を話しながら帰る。
「おじいちゃん、やっぱりボクには無理だよ」
今年から参加する新しいメンバーは自分だけだったということもあり、ボクのメンタルはズタボロになっていた。
「あはは、隼は今日のあれだけでもうメゲてもうたのか、しょうがないの~」
そう言って、おじいちゃんは笑った。
「だって、ずっと正座しながら演奏を合わせるの、難しいんだもん」
いじけモードに入ったボクにおじいちゃんは優しく話しかける。
「家ではあんだけ楽しそうに練習してたやろ~、じーちゃん、隼と一緒に演奏できるのずっと楽しみやったんやけど。隼は今年が初めてなんやから、何年もやってる人のほうが上手なんは当たり前やろ」
ずっと地面ばかりを見ていた目線を上げるとおじいちゃんは優しく微笑んでいた。
「隼が演奏する長刀鉾は疫病邪悪を祓ってくれるありがたい鉾なんやで。京都のみんなが平和に暮らせるようにって想いを込めて演奏する大事な役割や。毎年、多くの人が鉾や演奏を見に来てくれはるのを隼も見てきたやろ?」
「じーちゃんが演奏してるのを見て一緒にやりたいって隼から言ってくれたの、嬉しかったんやけどな~」
おじいちゃんがたたみかけてくる。
六十六本ある鉾には一つひとつに神様がいて無病息災を祈願しており、人の力で鉾を立て、演奏し、みんなが平和に暮らせることを祈る大事な期間だということを教えてもらった。
その中でも長刀鉾は鉾先に大きな長刀をもって、疫病邪悪を祓うため毎年先頭になる大事な鉾であり、そこで演奏できることは誇りだとおじいちゃんは嬉しそうに話してくれた。
毎年お母さんとお父さんと一緒に祇園祭でおじいちゃんがイキイキと演奏している姿を見るのがカッコよくて大好きだった。だから、ボクもやってみたいと言ったのだ。
「うん、ボクもおじいちゃんの演奏してる姿カッコよくて好き!ボク頑張って、もっと練習する!おじいちゃん、おうち着いたら一緒に練習しよう!」
我ながら単純だ。
大好きなおじいちゃんに言われたら気分もコロッと変わってしまう。
おうちに向かって歩くスピードも速くなる。
いよいよ、祇園祭当日だ。
おじいちゃんとおそろいの浴衣を着て気合も十分。
すでに建てられた長刀鉾には多くの人が集まり、写真を撮っている。
京都の夏が、いま始まる。
「コンチキチン♪」
この作品を応援する100円~
あなたの作品も投稿してみませんか?
応募はこちら