私と充の成長記【作者:池邨麻衣】

私は今、息子が通う小学校の前に立っている。

児童たちは教室で授業を受けているようだ。

その様子を横目に私は職員室に向かう。

「失礼します、横田充の母親です。齋藤先生いらっしゃいますか?」

普段は来ない職員室に少しドキドキする。

「充くんのお母さん、おはようございます」

そう言いながら担任の齋藤先生が近づいてきて、職員室の端に設けられているソファ席へ案内してくれた。

「実はお電話でも少しお伝えしていましたが、充くんは授業の際も落ち着きがなく少し注意力が散漫なところが見受けられます」

「落ち着きのない子は他にもいるのですが、充くんの場合は軽度のADHDかもしれないという話が出ています」

齋藤先生の言葉に驚きが隠せない。

「うちの子がADHDですか……?」

「そんなわけないじゃないですか!? 何をおっしゃっているのですか!?」

受け入れられずに反発する言葉を齋藤先生にぶつけてしまう。

「お母さん、落ち着いてください。私は可能性の話をしています」

「まだ今のレベルであれば訓練を始めるだけで改善できるのではないかと特別支援学級の先生からも聞いています」

齋藤先生は私をなだめるように言う。

そんな私たちの様子を見ていた特別支援学級の先生もやってきて、ADHDについていろいろ教えてくれた。

「では、充はこれからどうしたらいいのでしょう……」

先生の説明を聞いて、少し感情が落ち着いた。

齋藤先生がパソコン画面にADHDの特徴というページを見せてくれた。

「充くんに当てはまるのは『長時間じっと座ってられない』『忘れ物が多い』『話を聞いていない』などです」

頭では理解しているものの、混乱状態であることが表情に出ていたのだろう。

「充くんは、ただみんなより学ぶスピードが遅いだけです」

「歩き出す年齢や話し始める年齢に個人差があるのと一緒です」

「なので、私たちは充くんがこのまま教室でクラスメイトと授業を受け続けられるようにしたいのです」

「それにはお母さんの協力が不可欠です」

ゆっくりと落ち着いた声で話をしてくれる。

「まずはこちらの『ビジョントレーニング』から始めていきましょう」

特別支援学級の先生が一枚の紙を渡してくれた。

一から五十までの数字を目で順番に追うだけのトレーニング。

まずはこれを最後まで集中してさせる。

これなら充でもできそうだ。

齋藤先生と特別支援学級の先生にお礼を伝え、学校を後にする。

その日から夕ごはん前に充と一緒にビジョントレーニングをやる時間を設けた。

だが、充は興味がないのか全然数字を見つけられずにどこかに行ったり、そっぽを向いたりしてしまう。

自分の育て方にどこかいけないところがあって、充は発達が遅くなってしまったのかと自己嫌悪に陥る。

つい叱りそうになってしまうが学校で言われた「怒らず気長に」を思い出してグッと堪える。

これは充だけの問題でなく、私の問題でもあるのだ。

一緒に乗り越えなければと奮い立たせる。

ネットで「ビジョントレーニング」「知的が遅い子・改善の仕方」と調べては、充と一緒に挑戦するが日課になった。

最初は何を言っても最後までできなかった充だったが、言い方ややり方を変えながら根気良く続けることで一から五十まで数字を追えるようになっていった。

齋藤先生とも定期的に電話で状況を報告し合っているが、授業中もジッと集中できるようになってきたらしい。

「ただいま~!お母さん、今日はどんなゲーム?」

「早くしようよ!」

今では帰ってくるなり、充からゲームの催促をするほど夢中になっている。

子育てに正解はない。

齋藤先生が充をきちんと見てくれて教えてくれたおかげで、早く気づくことができた。

私も充と一緒に日々成長だ。

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作者:池邨 麻衣