京都に越してきたばかりのころ、私はよく食文化の違いに驚いた。
特に調味料の違いだ。
九州出身の私はパンチの効いた甘辛い醤油で育ってきたため、塩気のある京都の味にはなかなか馴染めなかった。
西京漬けの存在にも驚いた。獲れたての新鮮な魚しか食べたことがなかったので、わざわざ味噌に漬け込む理由がわからなかった。
海から離れた京都でも旬の魚を美味しく食べようと、味噌に漬け込んで保存性を高めたのがはじまりらしい。
暮らしの知恵はすごいと思った。
ここで暮らしはじめて五年が経った。
今では白味噌仕立てのお雑煮、淡口醤油、だし醤油の味にすっかり馴染めた。
私は仕事柄、いろんな地域に行く機会が多い。ご当地グルメなどをゆっくり見て回りたいと思うのだが、なかなかそんな余裕もない。次こそは絶対に時間を作ろうと決意するものの、結果はいつも同じだ。時間に追われる日々に嫌気がさす。今の生活をリセットしたい!
ある日、書店の前を通ると店頭に山積みされた「ハッカ油」に目が留まった。
「ハッカ?なんで書店に?」不思議に思った。
不思議に思った。
ハッカといえばハッカ飴が頭に浮かぶ。スースーとした清涼感のある飴だが好んで
食べたことはなかったし、どちらかと言えば苦手だった。小さいころいろんな味のドロップが入った缶の中にはいつもハッカが残っていた。
でもなんで書店の目立つ場所に山積みされているのだろうか?私の頭の中ははてなマークがたくさん並んだ。
家族でハワイに行ったときにアイスを注文したら、言葉が通じずミント味のアイスを手渡された。 交換してほしいと伝えられず、仕方なく食べた思い出がある。だからハッカに対してあまり良いイメージはない。
でも、なんで書店の目立つ場所にハッカ油が山積みされているのだろうか?
好奇心に駆られてさっそく私は調べてみることにした。書店に併設されたカフェの椅子に座り、スマホで記事を読んでみると「なるほど!」と頷ける内容がビッシリと書かれていて、実際に使ってみたくなった。
ハッカ油はハッカ生産量日本一を誇る北海道の会社から発売されている商品のようだ。ヒットしたきかっけはこのコロナ禍「マスクにハッカ油を吹きかけるだけで冷涼感が得られる」「いい香りがする」とSNSを中心に話題になったから。気温が上がるにつれて売り上げもぐんぐんと伸びていき、今では書店だけでなく、百貨店やスーパーの店頭にも並びはじめている。
購入したハッカ油をマスクにワンプッシュして装着してみた。すると……、まるで洗濯洗剤のコマーシャルのように洗いたてのタオルから爽やかな香りが漂う、まさにあんな感じだった。
「うわぁ、爽やか~!清涼感のある香りでスースーと心地良い刺激だわぁ!」
マスクの中に爽やかな風が吹き込んだように息苦しさから開放された気分になった。
「夏の暑い時期には枕やシーツにワンプッシュすると、ハッカの香りが寝苦しさを遠ざけてくれるようだ。湯船に垂らすと素肌から清涼感が得られるほか、バーベキューやキャンプでも虫よけスプレー代わりに使えるなど本当に万能だ!
ハッカってこんなに安心して使えるものなんだ。
「 感動! 」
私は悶々とした日々から解放されたくて思い切って会社を辞めた。
そしてそのままハッカの生産地である北海道へと旅立った。「北海道はでっかいどー!」なんてキャッチコピーがあるが、一面に広がるハッカ畑は圧巻だった。コロナ禍で発見したハッカ油は、私の心も身体も開放してくれた一押しアイテムとなった。
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