Z世代の新入社員

2023-05-24
作者:林 明美

四月、今年も初々しい新入社員が入ってきた。Z世代と呼ばれる新生人たちだ。

物心ついたときからすでにデジタル化が進んでいて、インターネットやオンラインの世界に慣れ親しんでいる。検索エンジンを使いこなして素早く情報収集したり発信したりするのが上手い。

昭和生まれの私はTwitterやTikTokといったSNSの視聴はするが、自らが活用したことはなく彼らに教えてもらいながら最近になってなんとかTwitterを始めた。

私が所属する営業部では今年新プロジェクトが立ち上げられ、入社して三年目の猪俣くんと今年入社してきたばかりの流山さんと私の三人で若い世代に向けたサプリメントの販路先を開拓することになった。

私たちは、社内で一番日当たりの良いミーティングルームを確保し、コーヒーを飲みながらミーティングを始めた。新入社員の流山さんは少し緊張気味だったが、猪俣くんが先輩らしく自己紹介をして場を和ませてくれた。そのあと一つの案を出してきた。

「eスポーツをやっている人をターゲットにするのはどうですか?eスポーツ施設や学校なんか。最近国体の種目にも入っているぐらい若者に人気がありますし、僕の周りでもやってる人いるいんですよ」

彼自身もゲーマーのようで、お昼ごはんを食べながらゲームをやっているのを何度か目撃したことがある。

すると目をキラキラさせながら新入社員の流山さんもその案に乗ってきた。

「私もその案、いいなと思います。若者にとってゲームは身近ですし目の健康を考える良いきっかけにもなるんじゃないでしょうか!」

若者世代をターゲットにした販路先として、Z世代の二人の案には説得力があった。

新商品完成を目前に猪俣くんが中心となって販路先のリスト化と案内資料の作成をしてくれた。私は初めてお電話かけをする流山さんのためにトークスクリプトを作成し、不安が消えるまで練習に励んだ。

各々割り振られたリストでお電話かけをスタートし、訪問やオンラインでの商談を始めた。予想以上に反応が良く、eスポーツの学校では学生たちの目の健康に対して気にかけられている先生や父兄が多いこともわかった。

学校では購買部や自動販売機での販売、企業では広告塔としてプロ選手を起用したプロモーションに興味を示してもらった。

夢中で走り続けていたら十件の目標に対して十二件の契約がいただけていた。

初めて三人で食事に出かけ祝杯をあげた。

驚いた! 意外にもZ世代の二人はお酒が飲めた。

なんだ私と気が合うじゃないか。

中心となって引っ張っていってくれた猪俣くんがしみじみと言った。

「僕、今まで目標を立てたこともなければ、もちろん達成したいと思ったことが

なかったんですが、何かに夢中になるっていいっすね。目標達成、超気持ちいい~!」

 かなり酔っていた。

それを見ていた流山さんが泣き出した。


 

「私、この会社に入って本当に良かったです。初めてのことばかりで不安だったんですけど、お二人に手厚くフォローしていただいて……ありがとうございます」

私も思わずもらい泣きしてしまった。

こうして二人は商品の完成を間近にどんどんと成長していった。

猪俣くんは契約いただいた学校からの依頼で、eスポーツをするうえで目のケアをすることの大切さを講義し、参加していた学生や父兄を唸らせた。

流山さんは苦手だったお電話かけも克服して今では談笑できるまでになった。

私はというと、今まで無縁だったeスポーツ界のことを知るために今週開催されるeスポーツ大会の観戦に行くことにした。

 

ゲームを楽しむ人たちのことを今よりももっと理解できるようになったらいいな。

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