友だちできちゃったぞパンチ 【作者:藤枝紫音】

2022-11-30

「五十嵐さん、一緒にお弁当食べない?」

 来た。う、上手く返事しなきゃ。鳴り響く心臓。ぐるぐる回る頭。

「あ、あわ、う、あえ、い、いい……」

「由紀、そんなやついいじゃん」

「そんなやつじゃない。五十嵐さん、だよ」

「ご、ごめん。わ、私、あの、ちが」

 上手く話せなくて、恥ずかしさのあまり思わずその場から逃げ出した。

「クソ~‼」

 ぼすんぼすん。

今日のことを思い出して、怒りに任せ何度も何度もクマのぬいぐるみに拳をめり込ませる。

 自分で言うのもなんだが、私、五十嵐都は恥ずかしながら人見知りだ。人と話すのが苦手で、赤面、吃音、動悸、震えに加え、話そうとすると頭が真っ白になってしまい、中学に上がって数ヵ月。いまだに友だちができていない。

小学生のころはまだよかった。いつのまにか友だちができていたし、慣れたら緊張もしないからなんだかんだやっていけた。

 殴り疲れて、顔と腹がへこんだぬいぐるみに倒れ込む。

「あぁ、なんでいっつもこうなんだろう」

 ―そんなんじゃお友だちもできないわよ。

親戚のおばちゃんの言葉を反すうする。

 そんなの、私が一番わかってるよ。

 自分のせいで、どう頑張っても思うようにできないことに涙が出てくる。

「都……」

「お、お母さん。いつからそこに……」

 お母さんが部屋の扉の隙間からのぞき込んでいた。お母さんは部屋に入ると寝転ぶ私に「これ」と大きなリボンのついた袋も渡した。

 開ける。中からはピンクのボクシンググローブが。

 なんだこれ。

 顔を上げる。

「都いっつもぬいぐるみ殴っちゃうでしょ? ぬいぐるみはそういう道具じゃないの。だからこれプレゼント」

「あ、うん……」

「ほらこっち」

 そう言って私の手を引いてガレージへと向かっていく。

「さ、サンドバッグ?」

「自立式のエアーサンドバッグよ。さぁ、都。思う存分殴りなさい!」

 お母さんの勢いに負けて思いっきり殴る。サンドバッグが大きく反り返る。殴った反動でサンドバッグが私の顔面にぶつかってきた。

「ぬぁっ⁉」

「素晴らしいパンチね。さすが私の娘だわ。でもまだよ! いつものあなたはそんなもんじゃないはずよ‼ さぁ、もう一本!」

 そこからお母さんの満足のいくパンチが出るまで殴り続けた。

 あの日から家に帰ってはエアーサンドバッグを殴る生活を送っている。パンチしたときの音が少しうるさいが、それもなんだか心地よくなっていった。今はこのサンドバッグを破ることを目標にしている。

 今日も早く帰って殴りまくるぞ!

 スキップしながら家に向かっていると、少し先で私と同じくらいの女の子が不良に絡まれているのが見えた。絡まれたら面倒だ。そう思い、別のルートで帰ろうとした瞬間、ふと女の子の顔が目に入った。

「す、杉崎さん……!」

 杉崎由紀。クラスメイトで、友だちのいない私のことも気にかけてくれる、めちゃくちゃ優しくてかわいい、クラスの人気者である。

「た、大変だ! す、杉崎さんが!」

 あわあわしながらも、本当に絡まれているのか、私の勘違いじゃないか、確認すべくこっそりと少しずつ近寄る。もしかしたらお友だちとかお兄さんの可能性もあるし

「お前がぶつかっちまったせいで俺の肩が折れちまったじゃねぇか! 慰謝料よこせや!」

「す、すみません!」

 いや、めっちゃ絡まれてる! しかも古典的なチンピラの絡み方してる!!

「た、助けなきゃ……」

 で、でもどうやって? 人見知りの私がどうやって助けるっていうんだ。

 杉崎さんの腕を不良が掴む。

「ちょ、ちょっとまった‼」

 物陰から出る。二人の視線がこちらに向いたのが感じられた。

「五十嵐さん!」

しまった~、出るつもりなかったのに! やばい、なんて言えばいいんだ。頭がグルグルして目まで回りそうだ。心臓にゴリラが住んでいるかのようにドラミングが鳴り止まない。

「そ、そそそ、その子を! は、離しなひゃい!! わ、私が相手になる! か、かってこい……!」

 何言ってんだ、私~っ⁉

「あん? てめぇ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

「五十嵐さん……!」

 不良が殴りかかってくる!

「うわーん!」

 パニックになりながら、拳を前へと突き出した。拳はたまたま不良のみぞおちにめり込み、地に伏した。

 私は杉崎さんの手を取り全力で走った。不良が追ってこないのを確認した瞬間、緊張の糸がプツっと切れて、その場にしゃがみ込んだ。

 私の背中をさすりながら、杉崎さんは興奮気味に

「五十嵐さん、助けてくれてありがとう! すごった! かっこよかったよ! 何かスポーツでもしてるの?」

「あ、いや、あの……趣味でボクシングみたいなのをちょっと」

「ボクシング⁉ すごーい!」

 そのまま家まで一緒に帰った。中学に入って初めての友だちができた。

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作者:藤枝 紫音