私にはこの春から高校三年生になろうとしている娘がいる。相変わらず朝はお寝坊さんで何もやってあげられない私に変わって大きな愛情を持って育ててくれている母には感謝!
実は2年前に不慮の事故であっけなく、私は天に召されてしまったのです。
今では娘と母、夫の様子を天から見守ることしかできないのですが、成長盛りの娘をおいて突然旅立ってしまったことがとても心残りで心配で、大きな声で叫んでも届かなーい、もどかしい(涙)
夫は勤務先が通いため娘と母の顔を見ずに家を出る。
娘と母の日常はと言うといつもこんな感じで始まる。
娘は朝起きてくるやいなや…。
「おばあちゃん、朝ごはんできてる?」
挨拶もせず朝ごはんの催促をする娘に対して母は
「挨拶もなしに、もう子どもじゃないんだよ」
「あっ、おばあちゃんおはよう。大人になったらちゃんとしますよ。だって私、おばあちゃんの背中を見て育ってるもん。大丈夫だよ心配しないで」
「口だけは達者なんだから。それよりも、先に顔を洗ってお仏壇に手を合わせておいで」
「はーい」
二人は毎朝この調子だ!
しかし今朝の娘はいつもと違った。神妙な面持ちでお仏壇の前に座り私に向かって何やら呟きだした。
「ねえお母さん、最近おばあちゃんほとんど外出してなくて家にばかりいるんだ。春とはいえまだ四月だし寒いからかな?まだ若いのにこのままボケちゃいそうで心配なの」
いつも勝手気ままに我がままばかり言ってると思ったけど、
おばあちゃんの心配をしてくれていたのね、潤 ありがとう!
でも一人で抱え込まずにお父さんにも相談してみたらー?
「そうだ今度お父さんに相談してみようかな。何か良いアイディアを出してくれるかもしれないし。お母さん、おばあちゃんのこともしっかり見守っていてね。今日も一日よろしくお願いします」
あっ、良かった私の声が届いたようで。
潤、今日も素敵な一日になりますように。
休日の朝
娘は夫の部屋を何度ものぞき込みまだかまだかと起きるのを待っていた。
母は法事で朝早くから親戚宅に出掛けていた。
夫は日曜の朝七時半から始まる『THE PRIME』を欠かさず観ている。
あなたー、番組始まるわよー、それから潤が相談があるみたい、起きてー。
習慣とはすごいもので夫は七時半ピッタリに起きてきた。
娘は起きてきた夫に対して
「あっ、お父さんはよう。大人のくせにお寝坊ね」
「おはよう、おまえこそいつもだったら昼近くまで寝ているのに今日はなんでこんなに早いんだ?お小遣いが欲しいのか?」
「そんなんじゃないよ。おばあちゃんのことで相談があって」
「おばあちゃんのことって、おばあちゃんがどうしたんだ?」
「最近、おばあちゃん用事がある以外はまったく家から出ないの。買い物は私が行ってるし、体のことを考えると少し心配で…」
「そうか。ずっと家にいてばかりじゃ足腰も衰えてくるし散歩くらいはしないとな」
そう言いながら夫は町内会の回覧板を見始めた。
「潤、これ、この健康アプリっていうのはどうだ?この街にこんな便利なサービスがあるなんて知らなかったよ」
「どんなアプリ?」
「得歩健“とっぽけん”って書いてある。ウオーキングや施設を利用するとポイントがたまって加盟店で使えるんだって。ゲーム感覚でなんだか楽しそうだぞ。スーパー銭湯スタンプラリーってのもあって入湯料無料券も当たるって書いてある。俺もそろそろ健康に気遣う年齢になってきたしな…」
二人は早速この健康アプリをダウンロードし、母に教えてあげようと盛り上がっていた
その時、
ガチャっと玄関のドアが開く音がした。母が帰ってきた。
「ただいま」
「おばあちゃんおかえり!早かったね」
「うん、久しぶりにみんなにあったら面白いことを教えてもらってね、早く貴方たちにも教えてあげようと思って」
「面白いことって何?」
母はおもむろに携帯電話をバックから取り出し
「携帯に健康アプリから登録すると毎日の散歩や、病院、図書館などに行くたびにポイントがどんどんたまって行くんだって。たまったポイントは商店街の加盟店であればどこでも使えていろんな商品が抽選でもらえたり安く購入できたりするんだって。この街の人はみんな活用できるっていうから二人も登録してみたらどうだい?」
母は得意気な表情でダウンロードしてもらったアプリを二人に見せた。
娘と夫は顔を見合わせ笑った。
母は帰ってきたばかりなのに再び買い物袋を手に足取りも軽やかに出掛けて行った。
母が出かけたあと娘はお仏壇の前に座り私に報告をしてくれた。
「お母さん、おばあちゃん元気に出掛けたよ。私も健康アプリを使ってポイント貯めるわ。今日もよろしくね!」(チーン)
家族の健康を天から祈ってるね!
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